(続編 #1)後継者しかできない経営改革

すでに電子書籍「後継者しかできない経営改革」を読んだ前提で以降展開しております。もしまだ未入手のかたはこちらから

Ⅰ.続編で最も重要なこと

i.「何を決断すればいいのか」よりも重要なこと

「あなた自身に決断が求められる」という内容で終えた「後継者しかできない経営改革」ですが、では一体決断が求められるとして、何を決めればいいのでしょうか。

すぐに思いつく方もおられると思いますし、逆に何を決めるのか見当もつかない、というかあれもこれも本来は決めないといけないのに、どれか一つを決めるなんてできない、という方もおられるかもしれません。

自らがオーナー経営者を務める会社を改革することを決めた!という方もおられるかもしれません。なかなか、覚悟がないとそう決められないわけですから、これは一大決心です。

しかし実は、この後継者しかできない経営改革の「続編」で皆様にお伝えしなければいけない最も大切なことは、「何を決めるか」ということではありません。かといって今すぐ改革に着手するべきというような話でもありません。

むしろ、それらとは逆かもしれません。

それは、

「改革を決意するためには、改革を忘れなければいけない」

ということです。

どういうことでしょうか?

ii.「決定」と「やっていること」の関係に着目

これについて説明するために、まずは決断に関して以下のことを考えてみましょう。

  1. これから「決めないと」できないことは何か
  2. 「決めたのに」できていないことは何か
  3. 「決めなくても」できていることは何か

まずはじめの「1.これから「決めないと」できないことは何か」は、まさに「改革」のような、これまで決めてはいないけども、これからやるとすれば「決めないと」できないことです。

日常のルーチンワークのように、いちいち人が集まって相談し、何かを合意する必要のないこととは全く違います。

ですので、この「1」の内容は重要です。

次に、「2.「決めたのに」できていないことは何か」はどうでしょうか。決めたのにできていないことです。たくさんあるんじゃないでしょうか。年度はじめに今年の目標や抱負として決めたのに、いつの間にかウヤムヤで終わっていることとか、2年ほど前に中期事業計画として社内で部課長を中心に作らせたのに、改革と旗を降っていたのは最初の数ヶ月だけで、いざ進めてみるとできない理由がたくさん出てきていつの間にか誰もそれに触れなくなってしまったようなこととか、そういうやつです。

これをちゃんとやっておけば、また今頃変わった景色だったかもしれない、、そう思う方もおられるかもしれません。

最後に「3.「決めなくても」できていることは何か」の内容はどうでしょうか。決めなくても動いていることといえば、「1」の反対のようなイメージでしょうか。特に何か決め事はないものの、日常業務として特に何も決めずに進んでいるようなこと。

これらは一見、月次決算のような純粋なルーチンワークを指しているかのようですが、実はそんな定型業務ばかりを指しているのではありません。客先をルート営業して、お決まりのメンバーと少し話をして、適当な頃合いを見て次の客先へと移動する、、、これも、たいていは何も決めなくても「進んでいってしまっている」行動の一つです。

そう考えると、この「3」は、めちゃくちゃ範囲が広くなります。なんせ、決めてないのにできていることですよ。先述の「1」、「2」は決めないと動かないことと、決めたのに動いてないことなんで、要するに両方とも動いてないんです。何もしてない。だから、実際に動いていることのほとんどがこれに該当するといってもあながち間違いではないでしょう。もちろん、「決めたから動いている」というカテゴリも存在すると思いますが、それは今回特に問題としていないので、あえて入れてません。

II .中小企業が改革に着手するには

さてここで、わざわざ1,2,3の話を持ち出したのはどういうわけでしょうか。

それは、1,2,3のうち、どれに着目することが最も重要なのか、ということをまずはお示ししたかったからです。

何かを決めるといっても、その方が重視していることによって1,2,3のいずれかの内容に収束していくでしょう。

改革の気持ちが強い方なら「1. これから「決めないと」できないことは何か」寄りの内容を決めるかもしれません。それとも、過去に改革を決めたのに失敗に終わりそうな現状をなんとかしたいと思っている方なら、「2. 「決めたのに」できていないことは何か」に着目するでしょう。

一方で「3. 「決めなくても」できていることは何か」に着目する方はあまりいないかもしれません。なんせ、何も決めなくても日々何かしら進んでいるわけですから。

さて、皆さんは1,2,3のうちどれが最も最優先で取り組むべきことと思いましたか?

僕の答えは、実は「1」でも「2」でもない、「3. 「決めなくても」できていることは何かです。

なぜ決めなくても動いていることが最も重要なのか。

それを考える前に、ついでに僕の中の重要性を完全にランクづけしておきたいと思います。

僕が考える1,2,3の優先順位は、次のとおりです。

3(決めてないのにできていること)>1(決めないと動かないこと)>2(決めたのに動いてないこと)

まずは「3」から、そして次に「1」です。これらがクリアされると、「2」はすでに無視しても良い状況になっているでしょう。だから最も優先順位は下です。

次に、こうなる理由をご説明します。

「1(決めないと動かないこと)」が「3(決めてないのにできていること)」より優先順位が低いのはどういうわけか。1は、いわば「改革」のようなことです。新しい収益の柱を作るとか、新製品を作るとか、新規チャネルを開拓するとか。そういった、普段とは異なる動きをプロジェクトなどの体制をとって推進するようなことです。それが重要だという思いから、「後継者しかできない経営改革」を書いたのではなかったのか?

しかし、ここで説明しなければいけないことがあります。

Ⅲ.新規事業は失敗する

i. 新規事業の成功確率

新規事業が失敗する確率をご存知でしょうか。

ここに、一つの目安があります。中小企業庁が2017年に開示した「2017 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan」という資料を見て計算すると、新規事業が成功する確率はおおよそ16%しかありません。

つまり、84%は新しい試みを始めたものの、収益に貢献する結果を生み出さずに終わったということです。

これをどう捉えるべきでしょうか。

どうすれば成功するかを考えなければいけない、それは正論ですし、正解の一つです。ただし、それは失敗してもダメージを受け止められる大企業にとっては、という意味です。

実際に大企業を中心とした新規事業の取り組みは、コロナが収束してここ数年活発化しています。この流れは当面続くでしょう。

ii. 中小企業にとっての新規事業

一方、中小企業はそんな余裕はありません。

そもそも新規に何か事業を始めるとなっても、そんなリソースはありません。ノウハウもありません。手を出せるとしたら、ある程度借入余力のある会社が借入を起こして会社を買収するような時でしょう。

そうやって事業丸ごと買い取れば、リソースの問題は当面はクリアできます。ただ、買収した企業と自社とをどうやって統治していくかというマネジメントの問題はあります。経営人材がただでさえ少ないのに、結局オーナー企業の後継者が買収先の会社の面倒を見なくてはいけなくなり、どちらも中途半端になってしまうという例を僕はいくつか見てきました。

余裕がないだけに、失敗した時のダメージはとても大きくなります。借入だけが残ってしまって、首が回らなくなってしまった会社を数多く僕は見てきました。

そう考えると、やはり新規事業の取り組みはほぼ失敗することを前提に考えなければいけないのです。

ここ数年、一部のメディアでも中小企業の新規事業展開を報じることが増えてきています。皆さんもこういう記事を見て、自分の会社もやらねば!と思っているかもしれません。これにはここ10年くらいのトレンドが背景としてあります。

iii. この流れはどこから来たのか

2012年、リーン・スタートアップという一冊の書籍が日本で発売されました。著者はエリック・リースで、自ら起業した経験をもとに、スタートアップ企業が必要最小限の機能だけを備えたプロトタイプ製品をまず作ってテスト的に市場に投入し、消費者の反応を見ながら改善を継続的に行うことでリスクを抑え、最小限の労力と時間で事業を立ち上げるという方法論をこの著書の中で唱えました。

同書はアメリカですぐにベストセラーとなり、この考え方に基づく実務が米国のベンチャーキャピタルから日本に輸入され、そして今や多くのスタートアップでこの方法論を前提にした事業化が普通に行われています。

そういう目線で見ると、この10数年で日本のスタートアップもかなりスマートに事業化ができるようになってきたと言えるでしょう。

成功事例も広まり、マスコミへの露出も増え、「新規事業」は企業にとって今や当然の選択肢になっています。20代でベンチャーに就職することも珍しいことではありません。自ら起業することも有力な選択肢です。

就職先ランキングではいまだに商社や金融機関などの大手ばかりですが、実際のところ選択肢はかなり多様化しています。

少なくとも2000年代は今ほど起業やベンチャーへの就職は当たり前ではなかったでしょう。

このように、新規事業に関する考え方というのは、ここ数年のうちに社会に流布された価値観でしかなく、光が当たる部分が大袈裟に注目されて広がっているという背景もあります。

iv. 「新規事業の成功確率は16%」の正しい解釈

実際に成功する確率は高々16%なのですから、失敗の方が圧倒的に多いわけです。でもそこに着目してリスクが取れないのもおかしいですし、むしろリスクが取れるようになってきた背景は喜ぶべきことだとは思います。

一方で、中小企業にとってこの考え方はどうなのかといえば、前述の通りです。そこは厳しい現実を見ざるを得ない。

なぜなら、10打数1安打くらいの確率なわけです。そこに賭けたら、失敗した時に瀕死になります。

ちなみに確率的にいえば、10打数1安打の確率でヒットすると仮定すると、10回打席に立って少なくとも1回はヒットを打つ確率はいくらだと思いますか?

これは単純な確率論の計算問題です。

答えは、約65%です。100%じゃないんです。(1-0.9^10≒0.65)

一瞬、「そりゃあ、10打数1安打なんだから、10回打席に立てば1回はヒットを打つだろうよ、だから10回打席に立って少なくとも1回はヒットを打つ確率は、ほぼ100%に近いだろう」と思いませんでしたか?

しかし実際に計算すると、違うんです。65%の確率と、「10回やれば1つは当たる」感覚とは、結構隔たりがあると思いませんか。

こんな話を聞いて、1打席目に賭けられますか?失敗しても、耐えて耐えて10回くらいやれば1つは当たるだろうと思っても、その確率も100%じゃなくて、65%です。3回のうち1回は「10回やっても全部ハズレ」なわけです。

これは、なかなか厳しい現実だなと僕は感じています。

他の方法を探すでしょう。

つまり、話が少しそれましたが、「1. 決めないとできないこと」は、最初に取り組むには大抵の中小企業からすると体力不足なのです。

Ⅳ.既存事業にまずはスポットを当てるべき

i. なぜ今特に問題も起こっていないところに注目する必要があるのか

だから、「3. 決めていないのに動いていること」にフォーカスをまず当てるべきなのです。ただ、既存事業で何不自由なく、皆普通に動いている。ここにフォーカスを当てるとは、どういうことなのか?それに答える必要があります。

それは、「決めていないのに動いている」ということは、他でもなく何らかの決定がなされているということであり、その決定が今現在も本当に妥当性を持つのかということを再確認するということです。この、「暗黙の前提となっている事柄」をあぶり出して、それを一つずつ再確認していくことこそが注目に値するほど重要なインパクトを会社に与えるのです。

ii. 意思決定と選択肢の関係性を理解する

詳しく述べましょう。

そもそも意思決定とは、決定前には複数の選択肢があったのが、決定後には1つに絞られていることを意味していますね。それこそが意思決定です。決定後に2つ残ってたら、まだ決まってませんよね、って思いますよね。

そして、決めていないのに動いている状態というのは、わざわざどうするか決める必要がないくらい同じような行動を繰り返している状況です。つまり、何らかのレベルで見た時に同じ行動を取り続けていることになるということです。

何らかのレベルで、と言ったのは例えば営業マンが顧客のコミュニケーションスタイルに合わせてある会社ではウェットな感じで飲みに行ったりフラッと立ち寄って世間話をしたり、また別の会社では基本的にメール中心で日常会話は済ませ、できるだけ対面は避けて効率的に動いているものの、顧客との設定は頻繁に取るようにしているような時に、これらは別の行動だとは考えず、同じ行動とみなすことです。要するに客によって対応を変えてはいるものの、自ら営業して取りに行っているという点では同じだとみなせば、こららは同じ行動を繰り返していることになります。

つまり、1つの行動を繰り返しているということなので、1つに絞られている以上は何らかの「決定」がなされた結果そうなっているはずですよね、と考えるのです。

iii. 何が暗黙の前提となっているのかを特定する

そこで次に考えるべきは、「一体何が決定されているのか」ということです。何が前提になっているのか、という問いかけでも同じことです。先ほどの営業マンの例で言えば、「自ら客先に出向いて、そこで気に入られて初めて仕事が来るようになる。だから積極的に出向いて(あるいはメール等で接点を多く取って)仕事を取りに行く」という決定がなされていると考えることです。

この思想の背景にあるのは、「対面頻度が信頼を生み出す」ということになるかもしれません。

さらにその背景には、「営業マンは最終的に個人の信頼で売るべきである」、という価値観も関係してそうです。

その前提が分かれば、今度はその前提は果たして今現在の環境下でも妥当と言えるのか、と考えます。

iv. その前提は本当に今でも妥当なのか?を考える

例えば何らかの商材を売っているケースを考えると、客の事業があまり変わっていない場合、注文してくる内容も量もある程度の変動の中に収まっていきます。そして、それは自社の担当営業マンをどう変えても、あまり影響を受けないとします。

この時、あなたは自社のトップ営業マンをこの会社の担当にしますか?

しませんよね、多分。誰が行っても変わらないのであれば、もっと若手に行ってもらうはずです。

でも長年その会社の担当をしてきた営業マンがいる場合、その営業マンは「俺じゃないとこの客の細かい、手の届く対応は無理だ」とか何とか言い出しますよね。自分がこれまで育ててきた客を自分より経験値が少ない奴に渡して、それで自分の時より成績が良くなろうもんなら、自分のメンツは丸潰れです。それでもなしにきっとその営業マンは若手に対して「俺くらいやらないとこの客みたいな太客は無理だよ」とか何とか言って自慢してたでしょうから。

対面式のルート営業では、このように誰が行っても実は結果があまり変わらないのに、担当を変えると業績が落ちる、みたいな主張が罷り通っていることがあります。

そして、既存事業にスポットを当てることの重要性は、まさにこういう「隠れた前提」「隠れた決定」を炙り出すところにあるのです。

なぜ、ストレートにこうしろ、ああしろと言わないのか。おかしいと思ったなら、それを直せといえば終わりじゃないか、と言う声も聞こえてきそうです。しかしここで考えてみてください。変わりたいと思っている人間はとても多いのに対して、他人から変えられたいと思っている人は誰一人としていないという、人間界の圧倒的事実を前提にしているからです。

>>> 続編#2 【変えられたい人はいないのに、変えようとしてしまう】へ

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