Ⅰ.変えられたい人はいないのに、変えようとしてしまう
自分を変えたいと思っている人はとても多いと思います。そう思っていないだろうと思う人でも、よくよく話をしてみると、「これはいけないとは思うんだけど」「そこが変えられたらいいんだけどね」というように、必ずしも自分は全く変わらなくていいと思っているわけではないことが多いと思います。
しかし自分を変えたいと思っている一方で、他人には変えらえれたくない。
これは人類共通の悩みなのかもしれません。
他方、そんな人で溢れているこの世の中で、毎日のように他人を変える試みが行われています。会社組織においても頻繁に聞く悩みというかグチの一つに、「なぜ(従業員は)変わらないのだろうか」というトップマネジメントの嘆きのようなものがあります。
「自分が継いだとき、会社は旧態依然とした社風で、これでは若い人が来るわけがない。だから自分は前職で培った財務の知見とプロジェクトの推進、あと新しい仕事を作るということを通して会社を変えていきたいと思っている。
でも、いざ新しいことを始めると、会社の中では「また◯◯社長が新しいものに飛びついて何かやり出した。」「巻き込まれると仕事が増えて面倒だから、あまり関心がないように振る舞っておこう」みたいに、自分の動きを否定的に捉える声の方が圧倒的に多い。
なぜ、みんな危機感がないのだろうか。自分よりももっと業界の知見や経験もあるのに、この先苦しくなることもわかっているはずなのに、どうして何もしない方向を選ぼうとするのか。
従業員の意識改革をしなければ、この会社はこのまま沈んでいく船のようになってしまう。」
ある老舗中小企業の社長が実際に僕に語ってくれたご自身の危機感と、それが従業員と共有できないことに対する不満です。
この社長は後継者ですが、自身の能力値が高く、色々と新しいことを発想してそれを形にしていくことができる人でした。
ところが周りはそれに対して否定的だったのです。 もちろん、人間関係の話ですから、上記のような新しい事業を始めるや否やという局面だけで全てが成り立っているわけではなく、きっとこれまでの付き合い方も多分に反映されていることなのだとは思いますが、少なくとも社内に協力してくれそうな人が見当たらなかったから、彼は周囲が変わるべきだと考えた。
もしかすると、この文章をお読みになっているあなたもこれに似たような経験をお持ちかもしれません。
どうして従業員は自分と同じようにこのままではまずい、と思ってくれないのか。このままではダメだということは、月初めの朝礼でも口酸っぱく言っているのに。。。、と。
II.問題と前提の境界線を訂正する
しかしここで、あえて僕から一言だけ、言わせてください。
これは問題と前提を取り違えてしまっています。
繰り返しになりますが、人は他人に変えられたくないのです。
そこはもう問題じゃなくて、前提にするべきです。
そうしないと、いつまでも変わらないことを問題視し続けて、「どうやれば変わるのか」ばかりが議論され続け、従業員との心の乖離がどんどんひどくなってしまいます。 変えようとしすぎるあまり、人の心が離れていってしまうということです。
だったら、もう変えられたくないことを前提にするしかない。それを前提にした時に、どういうことができるか。このように問いかけを変えるのです。
そして、そのような問いかけをした次は、変わりたくないと思っている人の行動をどうすれば変えることができるのか、と考えます。
みなさんは、どういうことができると思いますか。
Ⅲ.ビリーフを書き換える
僕の答えはこうです。
「人間の行動には必ずそれを裏で支えている 「ビリーフ(信念)」というものがある。行動を変えてほしいと直接いうのではなく、行動を生み出している信念が本当に正しいのか、実は間違っているのではないかという考えをぶつけることで、その人の「考え方」が変わり、既存のビリーフが破壊されれば、それによって行動は自然と変わる」
どういうことでしょうか。
まず、ビリーフというものが何なのか、気になりますね。
次に、ビリーフが破壊されるというのはどういうことか。
そんなことが可能なのか、と。
まず最初の方、ビリーフについてご説明します。
話をイメージしやすくするために、ある普通の夫婦の間に起こった、「朝ご飯はパン派かごはん派か」論争を持ち出します。
i. ある夫婦の対立
今、結婚したての夫婦がいたとします。夫はこれまでずっと朝食はパン派でした。朝の忙しい時間にゆっくりご飯など食べてられない、とそう思っているうちに、パンの方が美味しくて、今更ご飯はいらないという習慣がついています。 他方、妻はずっと朝食は白ご飯派でした。妻も仕事をしているものの、朝はご飯をしっかり食べないと頭が動かない。そう思っているうちに白ごはんを食べることが習慣になりました。
いざ、この二人が一緒に住み始めると、すぐに朝食をどちらにするか問題が出てきます。 ご飯とパンを別々に作ればいいじゃないか、という話も当然あるわけですが、共働きです。二人とも朝の時間にそんなことをしている余裕はないのです。 どちらかが譲歩するしかない。
この時、妻が切り出しました。 「白ご飯にしてよ。朝ごはんは私の担当なんだから、自分がやらないんだったら朝食は白ごはんにして。」と。
そうすると、夫も言い返します。「俺の方が出るのが早いんだから、ご飯担当はそもそも俺にはできないよ。できないのを知ってて、自分がやってるんだから自分に合わせろというのはちょっと納得がいかないな。むしろ、パンに合わせてほしい。それも嫌なんだったら、白ごはんを勝手に食べてもらっていいよ。俺はもう朝から外で適当に食べることにするから。」
妻は夫が起きるよりも遅く起きていたのです。かといって合わせると睡眠時間が削られるので、それも嫌だ。そう思っています。でも夫が朝食を外で食べだすと、ただでさえ忙しくて夫婦の会話がないところ、さらに会話がなくなってしまって、このまま心が離れてしまうんじゃ、、、と心配になります。妻は夫と朝食を一緒に食べる時間は大切にしたいと思っていたのです。でもパンは嫌だ。
さて、この言い合いに着地点はなかなか見つからなさそうです。結局どちらかが嫌々ながら折れるしかなさそうですね。
ii. 全く別のアプローチ
この場面を妻の立場で別のアプローチで試すと、どうなるでしょうか。
つまり、上記でお伝えしたように、相手の行動自体を変えてくれというのではなくて、相手の行動の背後にあるビリーフが実は間違えていると指摘するのです。
このケースだと、妻が夫に対して、「パンもご飯もどっちも一緒だから楽な方を選ぼうと思ってるかもしれないけど、実は全然違う。パンにはグルテンという物質が入っているけど、ご飯には入っていない。午前中、いつも頭がぼーっとするって言ってたのは、これのせいなんじゃない?」と言ったとします。
夫は、悩んでました。実はずっと朝から午後にかけて、前の晩にたくさん寝てもいつも頭がぼーっとして、倦怠感が残っていたのです。 そこで夫は妻のいうことを一度聞いてみようと思って、パンをやめることにしてみました。
パンをやめると言い出したのは、夫の方からです。夫も自分の体の不調をなんとかしたいと思っていたのです。
そしてパンをやめて1週間が経った頃、効果が現れ始めました。パンを常食にする前のように、クリアな頭で仕事に向かうことができるようになったのです。
それ以降、夫はまたパンが食べたいとは2度と言わなくなりました。。。
みたいな感じです。
iii. 夫に起こったビリーフの変化
ここで起こったことは、「パンは体に悪くないから、ご飯より手軽なパンの方が朝食としては適している」というビリーフです。 妻は、夫に対してパンをやめてほしいと言う代わりに、このビリーフを破壊しにいったのです。 そうすると夫にそれが刺さり、見事に自分からパンをやめると言うようになったのです。
こうした事例は、みなさん少なからず経験していますよね。 「なんだ、そう言うことだったのか」と侮ってはいけません。
なぜなら、このことを知っていて意識的に最初からアプローチするのと、相手をやり込める理由をあれこれ探してたまたまパンが体に悪いということをぶつけたのとは、結果が全然違うからです。
例えばさっきの朝食のケースで、当初は妻が夫のパン食をやめてもらおうと直接伝えていたとします。パンをやめてしろご飯にしてほしい、と。 それだと夫の方も抵抗して色々と理由を並べてくるので、妻も考えた挙句にパンが体に悪いと言うことを後から言い出したとします。
この場合、夫の態度は変わるでしょうか。 変わる人も変わらない人もいるかと思いますが、僕は変わらない人の方が多いと思います。 なぜなら、最初のアプローチの時点でもうガードが固くなってしまっているからです。
妻は自分の行動を変えさせようとしている。その一環でパンは体に悪いとかなんとか言ってきた。そんなことは聞きたくない。そもそもパンを食べている人はこんなに数多くいるのに、全員が体調不良を言っているわけでもないんだから、きっと一部の人にしか当てはまらないことを妻は自分にも当てはまる、みたいに言ってきて脅かそうとしているんだろう。その手には乗るまい。。。
と、こう思っているはずです。 最初からグルテンの話を相手のことを思って話しているように話した場合とは違う結果になりますよね。 最初から変えようとして話を持ちかけたなら、もう相手にとっては変えられそうになるまいとガードをして警戒しなければいけない会話だと言うふうに扱われてしまうのです。 そのあとで何か言っても、全部自分を変えようとする一環だと捉えられるので、何を伝えても効果がありません。
そうならないように、最初からグルテンの話を持ち出して、相手のビリーフに働きかけるアプローチを取るのです。 これは、このことを知っていないとなかなか意識的にすることは難しいかもしれません。 だからこそ、知っておいて損はないのです。
むしろこれだけで対人関係の悩みも幾分か解決することもあるでしょう。それくらい、ちょっとしたことの意識を持つことが結果を大きく変えることがあるのです。
iv. ビリーフが変わると行動も変わる
ビリーフを書き換えられた人は、自分の意思で行動を変えていきます。決して他人に変えられたとは思いません。他人には変えられたくないのですから。
この文章をお読みになったみなさんも、一度トライしてみてください。形式的にビリーフが間違えていることを指摘しようとしていても、あまりに行動を変えてやろうと思ってやってしまうと、おそらくそれは相手に伝わります。 ですから、やる時はあくまで相手のためを思って、自分の意見は全て忘れて真っ白な気分でやってください。 そうすると成功することが多くなります。
そして、このカラクリは仕事現場でも全く同じように使えます。 前回わざわざ「決めてないのに行動していること」のような、周りくどい概念を持ち出して説明をしてきたのは、このビリーフの書き換えにつながってくるからです。
決めていないのに行動していることを深ぼっていけば、いずれ行動をさせているビリーフに突き当たります。何を前提としているか、と言い換えても構いません。 そのビリーフレベルを突き止められれば、あとはそれをどうやって壊せばいいかを考えるだけです。
こう言うふうなやり方を進めることで、既存事業の収益性を上げていくために必要なステップである、既存の行動を全て疑ってみるというステップが自然にこなせるようになります。
(つづく、、、続編#3へ)
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